B:鮮血の鬼鳥 姑獲鳥
クガネの見世物小屋で、よく訓練されたベニツノという鳥が、人の言葉を真似るのを見たことがある。
それだけなら、笑ってみていられるが、その力を悪用する野生のベニツノがいるようなのだ。赤子のような声色を使って、人を誘き寄せ、クチバシで傷つけて血をすする、怪鳥……。
それが、鮮血の鬼鳥「姑獲鳥」だ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
紅玉海にはベニツノという物真似が得意な怪鳥がいる。大きく深いお玉のような下嘴にそれを蓋するような小さい上唇をしていて、しゃくれた顔ツキをしている。また名前の由来となった赤い角はまるで頭の上から顔の正面にせり出すように付いているのだが取ってつけたように見える。主に紅玉海に点在する小島に植生する低木の藪に枯れ枝や枯れ葉を集めて巣をつくる。怪鳥はその巣の中で丸めていた首を一度虚空に向けてギューッと伸ばすと長い鎌首をもたげた。なにやら音がする、持ち上げた首を振って、もっとも聞きやすい方向へ耳を向け神経をとがらせる。
人の声がする、獲物の音だ。
怪鳥は音を立てないように立ち上がると身を隠している藪の中を移動した。
怪鳥は長年の経験から知っていた。人間という獲物は同族の赤子に弱い。泣き声を聞くと一刻も早く保護しようと慌てて飛んでくる。怪鳥は声を出しやすいように首を真っすぐに伸ばすと喉を窄め、「おぎゃあ、おんぎゃあ」と人間の赤子の泣き声を真似た。
案の定、人間の気配が近づいてきた。怪鳥はその場でパタパタと足踏みすると耳を澄ませタイミングを計り絶好のタイミングで飛び出した。
「残念でしたぁ!」
果たしてそこに居たのは剣を構えた女剣士がたっていた。
「ベニツノってでかい鳥がいるんだがな」
第二波止場に到着したあたし達は波止場の傍にある「潮風亭」でクラン・セントリオのメンバーから話を聞いていた。
「そのベニツノってのが生き物の血が好物でな。獲物を捕まえては嘴で傷をつけては流れた獲物の血を啜るんだ。捕まったそいつが失血死するまでな」
あたしと相方は同時に苦い顔をした。
「人も襲うの?」
あたしが聞いた。クラン・セントリオの男性は陶器の湯飲みと言われるコップで酒を煽ると頷いた。
「そのベニツノってのが他の生き物の鳴き声なんかを真似るのが得意なんだが、中に人の真似を覚えて得意になってる奴が居てな。まぁ、魔物同士なら好きにしてくれってことなんだが、人が襲われるとなれば放っておけなくてな」
あたし達はクラン・セントリオの依頼を受け、用意した船に乗りオサード小大陸に近い海域へと向かった。紅玉海には船でしか行けないような無人の小島がいくつも点在する。小島は周囲を荒波に晒され岩が削り落とされかなりの高さまで絶壁の崖のようになっていて、その上に僅かに残った樹木などが生えている。そのため海路で渡ると上陸するにも一苦労だ。あたし達は船から降りると息も絶え絶えになりながら幾つも岩山のてっぺんまで登った。どの岩山も天辺は草が生い茂り、所々に幹のしっかりした松の木が生え低木が茂り、いくつか茂みが出来ていた。どの小島も30分もあれば外周を歩いて一周できるくらいの大きさだった。
幾つ目かの岩山を登り、歩き始めた時何かの声が聞こえた。
「ね、聞こえる?」
あたしは相方の肩を自分の肩で押した。
耳を澄ますとかすかに聞こえる。赤ん坊の泣き声のようだ。相方は困ったような顔であたしを見ていった。
「あたし達ですら来るのも一苦労な無人の孤島で赤ちゃんがどうやってくるの・・・・」
あたしも溜息をついた。
「これが人の住む本島だったらまだね‥。それが鳥さんの精一杯なのよ…。」
相方は剣を抜いて鳴き声がする藪へと近寄った。